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日本よりはるかかに進んでいる中国の「モバイルペイメント」。Trend Note Camp 第5回イベント「中国フィンテック最前線」取材ルポ


2017年3月8日(水)19時から、株式会社アドライトの主催で、東京・大手町にあるFINOLABで、Trend Note Camp #5「中国フィンテック最前線」セミナーが開催された。

会場には、中国のスタートアップや中国のフィンテック事情に関心がある方が詰めかけた。今回のセミナーのテーマは、中国の「モバイルペイメントの実態」。講師を務めたのは、セミナー当日の1週間前に中国から戻ってきたばかりという「ChinaStartupNews」の編集長である家田昇悟さん。講演内容は以下の通りである。

chainafintech

中国のインターネット企業

中国のインターネット業界を表現する時に、代表的に使われるのが「BAT」というキーワード。「BAT」とは、中国のインターネット業界を代表する3社の頭文字をとったもの。その3社とは、「Baidu(バイドゥ、百度)」と「Alibaba(アリババ、阿里巴巴)」「Tencent(テンセント、騰訊)である。

Baidu

Baiduは、中国のgoogleといわれるように、検索エンジンに大きな強みを持っている。「百度」は中国でもっともよく使われている検索エンジンで、このほか、地図サービスの「百度地図(バイドゥ・ディトゥ)」や、知識共有サイト「百度知道(バイドゥ・ジーダオ)」、旅行情報ポータルサイト「百度旅游(バイドゥ・ルーヨウ)」などの幅広いオンラインサービスを提供している。しかし、検索エンジン以外では目立ったサービスはない、ということで、中国メディアでは、「BAT」ではなく、「AT」と呼称を変えたほうがいいのではないか、という声まであがっているという。

Tencent

一方、Tencentは、テキスト、ビデオ、音声対応のチャット・ツールである「QQ」(パソコン対応)や「微信(Weixin)」(スマートフォン対応)のサービス提供からスタートし、現在、SNS分野で圧倒的な強さを誇っている。しかし、その逆に、コンバージョン(お金を払ってもらうサービス)を自社でも持っていなくて、弱かったため、それを解決するために、さまざまな企業へ投資を行っている。

たとえば、中国版アマゾンと言われる「JDドット・コム」や中国版食べログと評判の「大衆点評」(dianping)では20%の株式を保持しており、このほか、中国版Uberの「滴滴出行」(ディディチューシン)、フードデリバリーでは中国で最大の「餓了麼」(ウーラマン)、旅行サイト「携程」(シートリップ)などにも投資を行っている。自社の決済サービスであるTenpayを投資している企業へ導入し、決済サービスのシェア拡大をはかっているのがTencentの基本的な戦略である。

Alibaba

Alibabaは、元々はBtoBの情報サイトとしてスタートして成長してきたが、2002年のeBayの中国進出をきっかけに、創業者のジャック・マーがCtoCのショッピングサイト「淘宝」(タオバオ)を2003年5月に設立。

その時に課題になったのが、購入した代金の決済方法。中国では銀行振り込みはまったく信用されていないため、Alibabaは2004年に自社の決済サービスであるAlipayを導入し、エスクロ決済サービスを始めた。エスクロ決済サービスとは、商品の買い手はAlipayに代金を預け、商品の売り手はAlipayの入金を確認した後、買い手に商品を発送。買い手は送付された商品を確認し、Alipayに商品の到着を報告する。しかし、当初の取引内容と異なる場合は、買い手は商品の返送または取引破棄をすることができる。Alipayは、買い手に無事に商品が届いたことが確認できたら、売り手に代金を送金。売り手は代金を受領し、取引が完了。Alipayは、手数料を取ることで利益を得るというシステムである。このエスクロ決済サービスによって、「淘宝」は急速に拡大したと言われている。そして、「淘宝」は出展料を無料にしたり、手数料を安くして、中国市場からeBayを駆逐することに成功した。

その次に課題として出てきたのが、「淘宝」が拡大するに従って、偽物のサイトが出現したり、無料でサービスを提供していたため、ビジネスモデルとしては現金収入を得ることができない。そのために、Alibabaが2008年に設立したのが、インターネット・ショッピングモール型の「天猫」(Tmall)。こちらはBtoCのサイトで、出品料や梱包サービスなどが有料だが、消費者はサービスが優良なだけに、信頼性をおき、中国では最大のモール型ショッピングサイトに成長にしている。Alibabaは電子商取引や決済サービスにおいて圧倒的な強さを誇っている。

ところが、Alibabaは購入されるケースでは圧倒的に強いが、ユーザーの流入については弱かったため、中国版ツイッターと呼ばれるサービス「新浪微博」(ウェイボ)に投資をすることによって、日常的に使われるサービスからの流入を増やしていこう、というのがAlibabaの思想・戦略である。

以上が中国のインターネット市場を牛耳っている3大企業の概要だが、まとめておくと、Alibabaは電子商取引(EC)と決済サービスに強くて、それ以外の分野を強化するために、投資を行っている。Tencentは、SNSという絶対的な流入サイトを持っているので、コンバージョンの部分の強化をはかっている。Baiduは、最近では人工知能や自動運転分野に投資を実行している。

中国の決済シーン~AlipayとTenpayの全面戦争

中国の決済サービスの面でしのぎを削っているのが、Tencentの「Tenpay」(財付通)とAlibabaの「Alipay」(支付宝)である。全面戦争の様相を呈してきているが、この分野については、Baiduは蚊帳の外である。

では、ここ3年間でTenpayとAlipayがどんな決済サービス競争を行っているだろうか。2013年の第三四半期のデータを見ると、モバイルベースの決済サービスのシェアでは、Tenpayが4.2%、Alipayが78.4%となっている。しかし、2016年の中国の第三者モバイル決済市場は、Alipayが 50.4%を占め、第一位の座を死守。続いて、第二位は、Tenpayが38.1%を占めている。2013年が、Alipayのシェアが78.4%で、Tenpayのシェアがわずか4.2%だったことを考えると、この3年間でTenpayは大幅な伸びを見せたことになる。

TenpayがCtoCのオフライン市場をつくる

モバイル決済のポジショニングとしては、AlipayはオンラインのBtoC取引やTmallの決済サービスでは依然、圧倒的なシェアを誇っている。これまでは、オンライン取引のBtoC、CtoC市場しかなかったが、Tenpayがつくったのが、CtoCでのオフラインの取引市場。いや、取引市場というよりは、学校や友だち同士の送金のやりとりが、Weixinのアカウントで行える市場をつくったことである。

そして、現在、盛り上がっているのがBtoCのオフライン市場で、レストランや屋台、宿、書店、スターバックスコーヒーなどでの決済サービスのシェア獲得競争である。

では、AlipayもTenpayもどうやって、自分たちの市場をつくっていったのかと言えば、まず、Tenpayがつくった個人間の送金市場については、「お年玉キャンペーン」を仕掛けたことである。2014 年の旧正月である春節期間に、電子「紅包」(お年玉)機能を通じて全国民が電子決済を利用してお年玉を贈るということを実施したため、約482万個の受け取りが発生し、2日間でTenpayの電子マネー「微信支付」に登録された銀行カード情報は2億枚に達した。このお年玉送金は毎年のように行われ、統計によると、2016年時点で、「微信支付」に銀行カード情報を登録した利用者数は3億人を超えたと言われている。このようにして、TenpayがCtoCの個人間の送金市場をつくっていった。

BtoCのオフライン取引市場の拡大

一方、BtoCのオフライン取引市場はどのようにつくられていったのだろうか。Tenpayは、中国版食べログと評判の「大衆点評」(dianping)に1000億円の投資を行い、Tenpayの決済サービスと使ってもらうよう促進した。Alipayは傘下に「口碑」(コウベイ)という口コミサービスがあるが、ここに追加で1000億円の投資を実施し、Alipayの決済サービスを使ってもらうよう、サービスを拡大していった。

そのほかでは、タクシーの配車サービス分野で、Tenpayが「滴滴打車」(Didi Dache)に、Alipayが「快的打車」(Kuaidi Dache)に投資を行い、自社の決済サービスを利用してもらうと、運転手と消費者にそれぞれ10元ずつ還元するということで、決済サービスのシェア拡大に力を入れている。

TenpayがCtoCの個人送金市場を開拓し、かつ、BtoCのオフライン取引への導入を促進した結果、前述したように、2016年には決済サービスのシェアが38.1%となり、Alipayに肉薄するかたちで、勢いを増しているのが実情である。

中国でなぜ、モバイルペイメントが進んでいるのか

その理由は、大きく挙げると5つばかり。

①TenpayやAlipayなどの決済サービスと銀行の連携のハードルが低いこと。
たとえば、Tenpayに銀行のキャッシュカードを登録すれば、本人確認とチャージを同時に行うことができる。
②現金=不便という認識が強いこと。
中国の紙幣は偽札のリスクが非常に高い。さらに、最高額紙幣が100元なので、買いものなどが不便。
③デビットカードが普及していること。
中国人ひとりあたりのデビットカード保有率は、3.64枚で、クレジットカードの保有枚数0.34枚を大きく上回っている。
④QRコードの決済に移行しやすい環境であったこと。
⑤プラットフォームが圧倒的に強いこと。
などの理由から、中国では現金を持たないで、スマートフォンの決済アプリで支払や送金を済ませてしまう傾向が強いのである。

今後、中国は、モバイルペイメントで完結する社会となり、個人間の送金も当たり前になりつつある。さらに、Alipayに見られるが、個人の決済情報を元に、銀行業への進出も考えられている。

セミナーは20時30分頃に終了し、その後、21時まで講師や参加者との楽しい交流タイムとなり、第5回の「Trend Note Camp」は無事に終了した。