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【その男の名は高木清明】Vol.15 踏み上げが予感される粗糖相場。ペッパーファンドの膨らむ買い残玉


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着実に買玉を積み上げるペッパーファンド

その後、東京粗糖先物相場は2か月近くほぼ上下3円~4円の幅で一進一退を繰り返した。

ペッパーファンドが10月23日に1Kgあたり43円で買い付けた90年3月物も、10月30日までに42円40銭まで下がり、11月はほぼ同値水準で推移した。12月8日には久しぶりに45円20銭の高値をつけたもののその後また下げて、12月中旬には再び41円台にまで落ち込んでいた。

ただ、その間もサトウキビの産地であるキューバの収穫遅れとそれに伴う海外向け船積みの遅れなどが注目され、粗糖に対する大衆の関心は衰えなかった。

そのため10月の粗糖取組高(未決済の売買建玉)は、商品先物市場では空前の50万枚台に乗せ、11月10日には1日の出来高も10万枚を超えた。これは、東京砂糖取引所が開所して以来の最高記録でもあった。

それでも相場が上がらなかったのは、国内商社が例年通り、売りに回っていたからだ。もともと「大衆買いの商社売り」という構図は、農産物の市場では珍しくない。主に輸入商品を上場している日本の農産物市場では、海外から大豆や粗糖を買い付ける商社が、販売時の価格下落による損失を避けるために先物市場でヘッジ売りを入れるのが当然でもある。

ただ今年は早くから粗糖・精糖共に世界的な供給不足とそれに伴う在庫不足が指摘されており、国内商社についても10月までは買い手に回ったり、受渡しで現受けする場面が見られた。それもあって、普段は粗糖に関心を持たない先物会社やその個人顧客たちまでが粗糖を買い始めたため取組高を急増させた。

それが11月から12月にかけては、国内商社は逆に相場の頭を押さえる存在になっている。

これについて、「これまでの何か月間の先物市場での買いと受渡しによって、国内の商社も精糖メーカーも来年度分の粗糖の仕入れにめどが立った」という見方もあった。しかしその一方で、海外から届く生産地情報は供給ひっ迫を予感させるものが多く、ニューヨーク市場の砂糖相場も乱高下を繰り返していた。

そのため国内商社のこうした売り圧力は逆に、いざという時の踏み上げを予感させた。売り手が価格上昇に耐えきれなくなれば、損切りしなければならなくなる。売り手の損切りは、すなわち買い戻すことだから、価格はさらに上昇する。それが踏み上げだ。そしてそれがまた大衆の買い意欲をそそる材料となっているのも確かだった。

一方でペッパーファンドは、市場全体の出来高の増加にまぎれ目立たなかったものの、着実に買いポジションを増やしていった。

初日のように当限を除く全限月に300枚の買いを入れるような極端なことはしなくなった。だが相変わらず90年3月限、5月限、7月限の3限月には100枚単位で買いを入れてきた。そうして建てた買いポジションは、うまい形で都度々々利食っていたが、利食いの後には再び枚数を増やして買っていた。

結果としてペッパーファンドの買いポジションは、いつのまにか全限月合計で2万枚近くまで膨らんでいた。

それは来年に向けての粗糖相場の高騰を、ペッパーファンドが確信していると示すのに十分な枚数だった。

そうした「寝かせる」ための買い玉とは別に、ペッパーファンドは短期的な売買も上手だった。清明は、中でも一人のトレーダーの売買に関心を持った。

それはおそらくペッパーファンドでも中心となる複数のトレーダーの一人だと思われる。10月末から12月中旬まで続いたレンジ相場(一定の価格の中で上下する相場)の中でも、ほぼ毎日ある程度の利益を出し続け、結果的に1億円近く稼いだのである。

トムと呼ばれるそのトレーダーの売買手法は、40銭、50銭程度の小幅の値動きでも積極的に利益を取りに行くやり方で、シカゴのフロアーだったらスキャルピングと呼ばれる種類のものだった。東京市場は、しかし1日に5回の「節(せつ)」と呼ばれる立会しかなく、しかもそれぞれの節には一つの価格しかつかないため、こうした取引は難しい。そのうえ、この2か月間の粗糖相場は午前中についた価格が午後まであまり動かないことが多く、その日のうちに利食いするのが難しいという時期でもあった。それでも数日間、ポジションを持ち続ければ1円近く動くこともある。トムは、そのうちの40~50銭をすっと取っていくのである。

1回の売買で40銭取ることができれば1枚あたり4,000円の利益になる。売買手数料が1枚あたり1,710円と安いために利食いできるということもあるが、それでも300枚取引して40銭取れれば120万円。手数料を引いても68万3,000円の利益になる。複数限月で取引していけば、さらにその倍以上が稼げる。節商いという制限付きでも証拠金を気にせず、手数料も安く、大きな枚数を取引できて、しかも時間に余裕があればこういうやり方もあるのだと、清明にも大いに参考になった。

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粗糖で躍進する光栄物産

<益永 研>

この物語は実話に基づいているが、登場人物や企業名はすべて架空のものである。