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【その男の名は高木清明】Vol.17 1億の資金を半年以内に最低3億まで増やす手法


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須藤との会食(前編)

須藤が待っていたのは、銀座2丁目の「日々彩菜」という小料理屋だった。

一階にフランスの有名化粧品会社の店舗が入ったビルの最上階。といっても高級めいた雰囲気はなく、店に入るとすぐ10席ほどのカウンターが目に付く庶民的な作りになっている。須藤は常連らしく、2つしかない個室の一室で50歳ぐらいの男と2人ですでに飲み始めていた。

「やぁ、お疲れさま」

須藤が言い、隣の男が「初めまして」と2人に頭を下げた。丸顔で笑顔が人懐っこい男だった。

「遅れて申し訳ありませんでした」

清明がおしぼりで手を拭きながら詫びると、

「粗糖の取組が増えているから、市場も業務も忙しいでしょう」

笑いながら須藤が答えた。そして「こちらは共栄企画の佐橋社長。2年前まで目黒物産の経理部長でした」と隣の男を紹介した。

「佐橋です、今は新宿で須藤社長のお手伝いをしています。よろしくお願いします」と自己紹介し、清明と宍戸も挨拶を返した。

「共栄企画は何をされていらっしゃるのですか?」

一杯目のビールを飲み始めてから、清明が尋ねた。

「よろずやです。今は、須藤社長の依頼で資金回収の仕事をメインにやらせてもらっています」

「資金回収というと?」宍戸が尋ねる。

「まぁ、貸したお金の取り立てというところです」

鮟鱇の肝の酢の物を食べながら佐橋が笑って答えた。そして、首をかしげるようにして、須藤の方を振り返った。

「佐橋君、取り立てと言うと人聞きが悪いよ」と須藤は笑い、清明と宍戸にこう言った。「実は僕は今、ある会社の破産管財人のお手伝いをしていましてね。闇に消えたお金の行方を追いかけて、その一部を取り戻すのを佐橋君にも手伝ってもらっているのです」

その言葉に清明は思わず「ある会社とは豊田商事のことですか」と聞き返しそうになった。宍戸を振り向くと、宍戸も同じだったらしく、さらに詳しく聞こうと身構えたところだった。

そんな2人を目で抑え込んで、須藤はこう続けた。

「その件についてはまた、話すときがあるかもしれませんが、今日来てもらったのは別の話です。この佐橋君の会社に粗糖を取引させたい。資金は1億。それを、君たちに任せます」

「それは一体、どういうことでしょうか?」

清明は、手を付け始めたばかりの金目鯛の煮物に未練を残しながらも箸を置き、須藤の顔をまっすぐに見た。豊田商事が集めた個人投資家の資金2千億円の大半はまだ未回収だと聞いている。先ほど須藤が思わず口にしたように「闇に消えた」ままだ。

仮に、佐橋がその資金の一部を洗浄する目的で口座を開くのなら、それは犯罪の一種といえる。しかも、「任せる」ということは法律上禁止されている「一任売買」にもなりかねない。通産省・農林水産省の許可業者である商品先物会社としてはそんな注文を受けるわけにはいかない。

そんな清明の気持ちを読んだのか、須藤は苦笑した。

「誤解しないで下さい。このお金は共栄企画の自己資金です。出処もはっきりしていて、後ろ暗いところは何もありません。それは久保田社長にも説明して、実は口座開設の内諾もすでに頂いています。また、運用するといっても、最終的な注文は佐橋君が自分の責任で出します。君たちは、海外法人部として自己取引を行い、その注文通りに佐橋君にも注文を出させてもらいたいということです」

須藤が笑顔のままでこう言った時、「入ってもよろしいですか?」と女性が声をかけてきた。

「あぁ、三奈さん、どうぞ入って下さい」と須藤が答え、和服姿の小柄な女性が障子を開いて顔を見せた。まだ20代に見える若い女性だった。

「須藤さん、今日は来ていただいてありがとうございます。お久しぶりですね」

「高木君、宍戸君、このビルのオーナーの娘さんで、このお店の女将さんの三奈さんです。三奈さん、この2人は久保田さんの会社の有望株。2人とも独身です。また顔を見せると思うから、よろしく頼みます」

須藤に紹介され、改めて三奈に挨拶した清明は思わず、その和服姿にみとれてしまった。若い女性の和服姿といえば、成人式か結婚式の晴れ着以外に見る機会がないこともあるが、これまでは和服に特に魅力を感じたことがなかった。しかし三奈の濃紺の着物に締められたえんじ色の帯の上の胸の膨らみに思わずドキリとしたのだ。

宍戸はどうかと横目で見ると、表情はあまり変わっていない。ただ、「よろしくお願いします」と言った声は普段より少し大きかったかもしれない。

「こちらこそよろしくお願いします。私の父と須藤さんとは何十年来のお付き合いで、私も須藤さんには小さい頃から可愛がってもらっています。そういうことですから、お二人ともいつでも気軽にお運び下さい」

三奈の声は小柄な女性のイメージに似ず少し低めの落ち着いたものだった。顔も声も違うけど、口調は敦子に似ていると清明は思い、瞬間的に三奈を敦子と比べてしまった自分に驚いた。「女なら誰でも良いのか、お前は」と我ながら呆れたのだ。

三奈が部屋を出ていくとすぐ、須藤が最前の話を続けた。

「僕自身は、ABスターン社の話から、来年に向けて粗糖はやはりもっと上がると思っています。それなら黙って買っておけば良いとも思いますが、それだけでは僕が考えている数字には足りない。やはり先物取引でないと大きくは儲かりません。高木君からペッパーファンドの売買について聞いて、これなら乗れると感じました。別に君たち自身で売買指示を出してもらわなくても良いのです。毎日、ペッパーファンドと同じ手口で商いをして欲しい。それは出来ますか?」

清明は、ペッパーファンドのトムの名前を思い出した。かれの手口なら、そして現在の板寄せという取引手法であれば、それなりの余裕資金があれば「乗る」ことも利益を出すことも可能だろう。それはこれまでの商品先物会社の自己取引とは違う形の取引にもなるに違いない。

再びそんな清明の思いを汲み取ったように、須藤が笑って言った。

「これは光栄物産の自己資金による取引ではなく、あくまで共栄企画という顧客の取引です。しかし他に、多くはありませんが君たちの自己取引資金も光栄物産から出ます。君たちにとっても、将来のプロップトレーディングの実習になるはずです。むろん、君たちが出来ないと言うのなら、この話は無しにします。今日、佐橋君に会ってもらったのも、今回の粗糖で本当に儲けることが出来るのか、僕の考えだけでなく君たちからも話を聞きたいと佐橋君自身が願ったからです。君たちの意見を聞かせてもらえませんか?」

「須藤顧問がおっしゃる『数字』というのはどの程度のものなのでしょうか?」

清明が問う前に、宍戸が尋ねた。

「1億の資金を半年以内に最低3億。できれば10億まで増やしたいと考えています」

須藤は言い、「不可能だと思いますか?」と清明に尋ねた。

清明は即座に答えた。

「不可能だとは思いません。ペッパーファンドのトレーダーの中には、このチョッピー(小動き)な値動きの中でさえすでに3億円以上の利益を出している人もいます。私自身、元手資金さえあれば、そのトレーダーに乗ってみたいと考えていたところでした。まずは彼の動きに乗りましょう」

「そうですか。それを聞いて安心しました。法的な部分は心配しないで良いです。何とかお願いします」

佐橋が須藤に代わってこう言い、手を合わす仕草をした。佐橋を単なる須藤の部下としてしか見ていなかった清明にとっては、意外な思いを抱かせるものだった。と同時に「法的な部分は心配しないで良い」と言った佐橋の言葉にホッとしたのも確かだった。

「宍戸君はどう思いますか?」

須藤が聞いた。須藤はあくまで清明と宍戸2人の考えを聞く構えのようだった。

「私も可能だと思います。粗糖は来年のどこかでもう一度50円台に乗せると思います。今から買えば、その内15円はとれます。1000枚買えば手数料を引いても1億4千万円以上の利益です。今の法人の証拠金なら1億円で3000枚は建てられますから、黙って買っていても50円台になれば、4億5千万ぐらいにはなります」

宍戸もすでにやる気だった。清明にせよ宍戸にせよ、営業時代は個人の新規顧客中心の営業だった。先輩たちの中には10億円、20億円の預かりを抱えている営業社員もいたが、それは部下の顧客も含めてであり、しかも取引を始めてから当初資金に新たな資金を追加する「増し」を繰り返した結果だった。新規個人顧客の預かり証拠金額は300万円から500万円ほどが普通だった。

立ち上げたばかりの海外法人部で1億円の新規を取るという魅力に、2人が抗えるはずはなかった。

口座開設が終わればすぐにも取引を始めたいという佐橋に、宍戸が会社の登記簿など口座開設に必要な資料について説明していると、須藤が清明に「そういえば」と話しかけてきた。

「来年1月からまた、東工取(東京工業品取引所)で電算化委員会が再開されるようですね。高木君も参加されるのでしょう?」

「ええ、先日大崎常務からメンバーに入るように指示されました。もともとは来年4月からの稼働予定でしたが、意見がまとまらず、システム作りも遅れてしまったようです。今度は順調に進めば良いのですが……」

清明が答えると、須藤も頷いた。

「本格稼働は91年4月にまでずれ込むようですね」

「それに、来年は商品ファンド法の整備やオプション取引導入に関する会議も始まるそうです。日本市場も米国の動きに合わせた国際化を目指しているわけで、私たちも忙しくなりそうです」

須藤は清明に熱燗を勧め、清明の猪口が空くとすぐ次の酒を注ぎ足している。そんな須藤の姿をなるほど成功した営業マンらしいと思いつつ、一方でその須藤を相手に新しい仕事の話をしているという高揚感も手伝って、清明は一気に酔い始めていた。その夜、「日々彩菜」で須藤と別れた清明と宍戸は、新宿の事務所まで戻るという佐橋と共に、タクシーで新宿西口前に乗りつけた。光栄物産の寮がある初台まで、そのままタクシーで帰っても良かった。しかし宍戸と佐橋の話が盛り上がっていたため、3人でもう1軒立ち寄ることにしたのだ。

店は佐橋の事務所に近い丸の内線西新宿駅から少し路地裏に入った古いビルの1階のスナックだった。

<益永 研>

この物語は実話に基づいているが、登場人物や企業名はすべて架空のものである。

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