FX・仮想通貨・先物の最新業界情報メディア

Menu

【その男の名は高木清明】Vol.18 佐橋と須藤の関係とは。明かされた須藤の営業手法


前回はこちら

須藤との会食(後編)

店は佐橋の事務所に近い丸の内線西新宿駅から少し路地裏に入った古いビルの1階のスナックだった。

この一帯は20年ほど前には浄水場などがあった地域である。最近は新宿再開発地区と呼ばれているが、計画が発表されてからも住民の反対が根強く、再開発はいまも終わっていない。辺りには当時のままに、小さくて古いビルや一軒家もかなり残っている。

東京屈指の歓楽街である歌舞伎町から大ガード下をくぐってわずか15分程度。にもかかわらず、ネオンと狂騒に彩られた歌舞伎町の華やかさはなかった。

ただもともと新宿駅から近い好立地であり、バブルということもあって、最近は地上げ屋めいた連中の出入りも激しくなったと、佐橋は言う。佐橋のオフィスにも、そういう輩が時折飛び込んでくるのだともいった。

そして、佐橋に連れられて入った「道草」という名前のスナックには、まさに一目でそれと分かる手合いが3人ほどボックス席に座っていた。

カウンターには年配のママらしい女性が一人、ボックス席には30代と20代に見える若い女性が2人いてその3人の相手をしていた。

佐橋は、その3人を見ても表情一つ変えず、カウンターに陣取ると、清明と宍戸にもカウンターに座らせた。

「申し訳ありません。本当は歌舞伎町に行けば良かったのですが、今夜は徹夜になりそうなので、こんな店にお付き合いさせてしまいました」

ママが出したおしぼりで手と顔をごしごしと拭き終えた佐橋が、清明と宍戸に向けて言った。

「こんな店で悪かったわね」と今度はママが佐橋に言った。

「これでも良心的なお店として10年以上やっているんですよ」

清明と宍戸に笑いかけた。

「僕は初台に住んでいて、同じ感じのスナックに週に1度は通っています。歌舞伎町よりこちらの方が親近感がありますよ」と宍戸が答えた。

「ママさんは、どちらのご出身ですか?」

麦焼酎のお湯割を頼み、清明が聞くと、「博多」とママが答えた。

「九州ですか。僕らの業界も九州出身が多いんです。もっともわれわれ2人は静岡と神奈川で、九州じゃありませんけどね。ところで佐橋さん、須藤顧問とはいつからのお付き合いですか?」

一通り、ママと挨拶を交わした後、清明は佐橋に向き直って尋ねた。ボックス席は、それなりに話が弾んでいるようだったが、声は抑えているらしく、それほど気にならない。

「大学を卒業して以来ですからほぼ30年になります」と佐橋は言い、

「最初は証券会社で一緒だったんです。当時、須藤さんは東京本社ナンバーワンの営業マンでした。ただ会社が株より投資信託の営業に力を入れ始めたので、面白くなくなったと言って商品先物業界に転じたんです。その後、経理が分かる人間が欲しいと誘われて私も目黒商事に入りました」と、当時を振り返った。

「須藤顧問については様々な伝説を聞かされます。たとえば、現在商品業界でいろいろな会社が使っている飛び込みや、テレコール、プッシュといった営業手法はもともと須藤顧問がいた証券会社のやり方で、それを須藤顧問が目黒商事に持ち込んで成功したとか?」

清明が最も聞きたかったことを佐橋に聞いた。本来なら須藤に直接聞けば済むのだが、須藤にはこの種の質問は出来ない雰囲気があった。

佐橋は笑って、こう答えた。

「それはあの証券会社だけでなく、当時は証券会社すべてが同じだったんじゃないですか。少なくとも飛び込みについては皆、同じ営業スタイルでしたよ。まずは名刺を何枚集めるかから始まるというわけです。ただ、須藤さんは格が違っていました。例えば、ある大手ホテルに有名な靴磨き屋さんがいて、その常連さんには、東京まで陳情にきた地方の議員さんたちが多かったそうです。上京のたびに何足も預けていく人もいるぐらい腕も良かったようです。須藤さんはその靴磨き屋さんに自前で通って親しくなり、議員さんたちに紹介してもらったそうです。そして、その人たちの縁で地元の有力者やその親族にも知り合って、株を大量に買ってもらったということです。株の営業マンはたくさんいますが、誰もがそんな営業ができるわけではありません」

「なるほど、電話帳片手に朝から晩までテレコールしても、そういうお客さんにはたどりつけませんからね」

清明は営業マン時代の自分を思い浮かべて苦笑した。

やがて佐橋が宍戸と話し始めると、さきほどまでボックス席にいた若い女性がカウンターに入り、代わってママがボックス席に移動した。

「こんばんは、あきなです」と女性は名乗り、「それともせいこの方が良い?」と目を細めて笑った。松田聖子と中森明菜。80年、81年に相次いでデビューした2人は、この10年間トップアイドルを競い合っている。おかしかったのは、この女の子は浅黒で細身。つまりボーイッシュなタイプで、残念ながら明菜にも聖子にも似ていなかったことだ。

「う~ん、どっちかというと早見優の方がタイプかな」

試しにハワイ育ちと健康そうな小麦色の肌で人気のある別のアイドルの名前を言ってみると、「やっぱりぃ。わたし、どちらかというと、そっち系だってよく言われるの。でも、この辺りでゆうですっていうと、おじさんが多いからすぐ田中裕子かって。そんなに色っぽいかなぁ」

「いやぁ、おじさんたちならNHKの『おしん』のイメージじゃないか?」

「えぇっ、田中裕子って、おしんだったの? 知らなかった。ひどい~」

そんな無駄話をしていると、ボックス席の3人が立ち上がり「帰るぞ」とカウンターのあきなにも挨拶して店を出て行った。時間を見ると、すでに10時を過ぎている。

「あっ、もうこんな時間ですか。われわれも、そろそろ帰りましょう」と佐橋が言い、ママに勘定を支払った。1万円札1枚。それほど飲まなかったものの、3人分としては安い方だった。

NEXT :10月27日木曜日更新
暴漢(前編)

<益永 研>

この物語は実話に基づいているが、登場人物や企業名はすべて架空のものである。

提携先

メディア掲載実績

【日経CNBC】情報キャッチアップ『ビズ・レコ』

CSR活動

世界のトップトレーダーに
挑戦せよ
WTCに参戦する
メルマガ登録で
最大1000万が当たる
今すぐメルマガ登録する