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【その男の名は高木清明】Vol.3 清明が提案したザラバ取引への移行を見据えた鉄板の「プロップ・トレーディング」


取引電子化のイメージ

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取引電子化とプロップ・トレーディング

「つまり、いずこも同じ。いくら厳しいルールがあっても、それをかい潜って儲けようとするやつはいるということだよな。で、シカゴの取引所はどうすると言っているんだ?」

一通り清明の話を聞いてから、久保田は笑ってこう聞いた。

1分のイメージ図「ローカルズを締め出すわけにもいきません。事件後は、ブローカーに対して1分間スタンプを義務付けましたが、機関投資家たちは納得していません。取引時間を小刻みに報告させるために注文チケットに発注から成立までの時間をスタンプさせるというものですが、機関投資家たちは、そもそも、注文してから成立の報告まで1分間もかかること自体が問題だと言っているそうです」と言った清明に、須藤が頷いて、久保田に言った。

「機関投資家から見れば、その1分でマーケットが動いてしまうリスクがありますからね。一部はシカゴの取引所からドイツの完全電子取引所のEurex(ユーレックス)に取引を移し始めたようです。機関投資家たちをつなぎとめるためには、これからは取引所も電算化を急がなければならないでしょう」

「手振りと叫び声で注文をやり取りする伝統的なオープンアウトクライという売買仕法もいずれは無くなるのかな?」

久保田が聞いた。

「帰国直前にCME関係者から聞きましたが、CMEではこれを機に、一気に電子化を進めようと考えているようです」と、清明が答えると、

「グローベックスですね」

須藤が口を挟んだ。

「以前、CMEのレオ・メラメド名誉会長と会った時に聞いたことがあります。フロアーは、シカゴの取引所の象徴だが、コンピュータ化が進めば、いずれ取引所もシステム化せざるを得ない。そのためにグローベックスというプラットフォームを開発している。これがあれば、銀行も生命保険会社も、事務所にいながらにして、スクリーンでマーケットに直接参加できるようになるのだ、と」

「なるほど、それは面白いでしょうな」と久保田は須藤を見て言ったが、すぐ、

「日本でもシステム化が話題になり始めているが、それでも、コンピュータを介しての売買なんて、実感が湧きませんね」と笑った。そして清明に向き直って「まぁ、それについてはまたの機会に聞くとしよう。ところでだ、以前、お前が書いてきた提案書だが、まだやる気はあるのか?」と、今日の本題に入った。

プロップトレードイメージ図

清明は居住まいを正して、「プロップ・トレーディング(自己取引)です。あります。やらせていただければ、きっと新しい収益モデルを作れると考えています」と言った。

それに対して、久保田は笑いながら、しかし、厳しい目で清明を見て、

「新しいかどうかは分からんが、社内的には、売買の実績もないお前にそんなものを任せても、儲かるはずがないからやめとけと反対する声ばかりだ」

と、否定的な社内の反応を伝えた。

「要するに、今までのヘッジ中心の自己取引ではなく、もっと積極的に、マーケットで儲ける道を作りたいということだろう? いわば手張りじゃないか。取引員の古い店の中には、親父さん一人が相場で儲けて喜んでいる会社もあるが、中には、大損してつぶれた会社もある。わが社は、ブローカーとして安定した商売を目指したい。俺も、あまり賛成できないよ。お前も3年間の海外住まいで、疲れたろう。余計なことは考えずにまずは、営業に戻ったらどうだ? 営業に戻るのなら、アメリカ帰りだから、課長にするし、給料も上げるぞ」

清明にとって、久保田のこうした反応はある程度予想したものだった。それに備えて理論武装もしてきた。しかし、最前の久保田の電子取引への反応や、社内の反発などもある。当初考えてきた、米国のプロップ・トレーディングと、現在、商品取引員会社が日常的に行っている自己勘定取引との違いについては、まだ言わずにおこうと瞬間的に決めた。

旧来型の商品取引員の自己取引の功罪に触れれば、現在、この会社のやっているビジネスの一部を根底から否定する結果にもなりかねないからだ。そこで、清明はまず、こう切り出した。

「3年間、フロアーの人々やブローカーたちと付き合ってみて、私自身はこう考えました。それは、フロアーであれ、コンピュータであれ、そして良くも悪くも、売買に勝つには、1にスピード、2にコスト、3に戦略、そして何よりも会員やブローカーがマーケットで持つ様々な特権が、予想以上にパフォーマンスに影響するということです」。

ここで清明は、さらに久保田を見据えて続けた。

「私がやるのはアービトラージとスキャルピングの組み合わせで、オーバーナイトのポジションは作りません。ですから、翌日に持ち越すための証拠金は要りません」

「アービトラージというのは?」須藤が聞く。

「限月間や商品間の価格差を取る売買手法です。日本流にいえばサヤ取りです。ただ、日本の取引所は板寄せ売買で、近い限月から順番に取引していきますから、米国のように、限月間で同時に売買するアービトラージはできません。それに、1限月につき一つの価格で決まりますから、スキャルピングもできません。立会の途中でどんなに速く注文を出そうと結局、一つの価格しかつかないので、スピードは意味がないからです」

清明はここで一度、2人を見直し、こう言葉を継いだ。

「しかし、日本の取引所も今、米国流のザラバ取引への移行を検討しています。仮に、板寄せがザラバに変われば、米国流のスキャルピングが可能になります。ですから、この仕事は、取引所がザラバ化してからということになります。ですが、ザラバに移行したらすぐ、誰よりも早くやりたいと考えています」

「確かに、サラバ化は話題になっているが、ザラバになっても、相場は相場だろう。スキャルピングだ、アービトラージだといったところで、多少は安定性が増すにしたって、方向が外れてしまえば損をするのは同じじゃないか? 結局、手張りと一緒ということになるわな」と久保田が、首を振る。

「一緒ではありません。なぜなら、これは会員の自己取引だからです」と清明は慎重に答えた。

「一般の投資家と取引員の自己ディーラーとの大きな違いは、取引コストの安さです。まず、一般投資家は自分の口座に、先に証拠金を預託しなければ取引ができませんし、その証拠金が許す枚数の取引しかできません。また、取引所に払う取引所手数料のほかに、ブローカーにも手数料を払わねばなりません。その点、会員は引け後に残った、つまりオーバーナイトで持ち越すポジションに必要な証拠金だけ取引所に預託すれば、いくらでも売買できますし、その証拠金も、投資家から預かった証拠金に比べれば安いものです。手数料も取引所手数料だけ。いずれにしても、私がやるのは、基本的にその日のうちに決済するスキャルピングですから、どれだけ注文を出しても、翌日に持ち越すための証拠金は要りません。手数料も、他の自己取引同様に安くしていただければ、アービトラージもスキャルピングも利益が出しやすくなります」。

清明はここまで言って、フッと息を一つ吐き出した。自分では緊張しているつもりはなかったが、やはり緊張していたのだ。清明は気を取り直して、

「今のところ、これだけしか話せませんが、今、自己玉を扱っている人たちにもそれほど迷惑をかけないと思います。まぁ、注文の出し方で、多少怒られるかもしれませんが、それはその時に話し合います。今日は、これだけをお願いしようと思ってきました。是非、ご検討をお願いします」

「だが、損した時の支払いはどうするんだ。仮に会社が払うとして、最大どの程度、必要だ?」と久保田が尋ねる。清明は間髪入れずに答える。

「資金が大きければ、それだけ取引枚数が増やせます。それだけのことです。トレーダーも増やせますが、日々の損失限度額は、例えば200万円までと決めていただければ、それなりの枚数でやります。それが10万でも、50万でも、会社が決めてくれれば結構です。そして損がその水準まで来たら、その日の売買はやめます。収益目標は損失限度額の1.5倍。200万円が損失限度額なら1日の目標額は300万。営業日数を20日とすれば、月間収益目標は6000万となります。最初の3か月間はこの数字でお願いします。損失幅を100万までと言われるなら、月間目標額は3000万です。

ただし、もし月単位で目標額を上回る利益を達成したら、その差額の50%をチームに下さい。逆に、目標額に達しない月が3か月続いたら、クビにしていただいても構いません。簡単に言えば、そんな感じです。

これは、シカゴのローカルズと飲んだ時に聞いた、フィー体系の一つです。私はサラリーマンですから、最低限の経費を賄えるだけの目標額を、会社の方で決めてください。その上で、トレーダーとして、利益報酬はきっちりいただきたいとも考えています。そうすることで、別の新しいトレーダーもまた、育てられます。是非、ご検討ください。よろしくお願いします」

一気に話し終わって、高木が手付かずだったお茶に手を伸ばすのを見てから、久保田は、隣の須藤に尋ねた。

「いやぁ、まいりましたね。こいつ、結構本気だったんですね。どうしましょうか?」

さもまいったかのような振りをして、久保田は須藤に話を預けた。

「なかなか面白いと思いますよ。少なくとも、何かをしたいとはっきり言えるだけ、見どころがあると思いますね。ただ、失敗したらクビにしてくれだけは、いけません。ところで高木さん、あなた、研修の時には、麻雀組でしたか、チンチロリン組でしたか?」

と須藤は、目を細めて清明に尋ねた。

「はっ、研修の時ですか?」と言ってから、清明もその研修を思い出した。

当時、渋谷の初台にあった光栄物産の寮では、毎朝6時に起こされ、ラジオ体操やマラソンで体をほぐした後、昼休みを挟んで4時間ほど外務員試験の勉強。その後は、夕食を挟んで最低でも6時間以上、40名の新入社員が麻雀とチンチロリンのどちらかを選び、遊ばされたものだ。不参加は無し。夜になっても、外出は禁止だったから、2つしかない娯楽に興じるしかない状況だった。

そして、寮には仮に40名がすべて麻雀を選んでも良いように、人数分の麻雀台が揃っており、チンチロリンのためのサイコロもそれなりの数が揃えられてあったし、酒も、あった。

当時はそれを何とも思わなかったが、その後、大学の同級生たちと飲んだ時に、この話をしたところ、「なんだ、そんな会社があるのか? やっぱり、先物取引の会社だなぁ」と笑われて、そういうものかと思った記憶も蘇ってきた。

「基本的に麻雀組でした。麻雀はあまり強くもなかったのですが、チンチロリンは、熱中し過ぎるのでまずいと思いました」と高木は答えた。

「なるほど、熱中し過ぎるのでまずい、ですか。実はあれは、僕が目黒商事の専務だったころに思いついて、新人研修に取り入れてもらったものなんですよ」と須藤は言い、「チンチロリンに熱中する子は、この商売では良い営業マンになると、私は思います。実は、何も考えずに、目の前にある単純作業を何時間でも続けられるのは、この仕事の営業マンには欠かせない大きな才能の一つなんです。その点、熱中し過ぎるからと客観的に自分を分析して手を引いた君は、あまり営業向きではないのかもしれませんね」と続けた。「でも、大丈夫。当時の君の同期の40人の内、今も、この会社、いやこの業界に残っているのは何人いますか?」と尋ねた。

清明が「1人、いや2人だけです」と答えると、「ほらね。本当に向いていない子は研修時代にまず、夜逃げするものです。そして、次に向いていない子たちから順番に辞めていく。そんな業界なんです。それは証券会社も同様で、僕も、Nの新人の頃の同期は、ほとんど生き残りませんでした。業界に残っている者はいますが、Nと比べると、どうも納得できずに悶々としている人間のほうが多い。君も、そして久保田社長も、生き残って、将来について語っているだけでも大したものです。その君が今、これならまだ生き残れると思うものがプロップ・トレーディングであるなら、僕としてはチャンスを与えたい。ただ、最初から負けた時の話をしてはだめですよ。まぁ、できるかどうかは、最終的には、久保田社長のご判断になりますが、僕は、応援しますよ」

褒められたのかどうかも分からない須藤の言葉に、なんと答えてよいか分からず、清明は「有難うございます」とだけ答え、改めて久保田を見た。

「まぁ、須藤さんがそうおっしゃるなら、もう一度考えてみよう。皆の説得は大変そうだがな。ただし、やるにしても、とりあえず3か月だけだぞ」

久保田の物言いは、すでにやらせることを決めたようなものだった。

清明は改めて須藤を振り返り、ここまで久保田に信頼されているこの人物は、いったい、どんな男なんだろうと考えた。すると、そのタイミングで、久保田も須藤を横目で見ながら、こう切り出した。

「ただ、その前に、本当に営業に戻る気がないのなら、一つ別な仕事も頼みたい。シカゴの連中に頼もうと思ったんだが、東京にも誰かいないと困るなとは思っていたんだ。プロップの話は、並行して準備していけばいいだろう。須藤さん、どうですか?」

「良いんじゃないですか。英語は問題なさそうですし。実は高木さん、今日僕がここに来たのは、イギリスの砂糖商社サーテン社が、東京の砂糖取引所にヘッジ注文を出したいというので、一度、君に会っておきたいと思ったからです。サーテン社の日本でのアカウント・エグゼクティブを君に頼めないでしょうか?」

須藤の話は突然で驚かされたが、とりあえずプロップの話が進みそうだという安心感も手伝って、高木は即座に「私でよろしければ、是非お手伝いさせてください」と答えた。

すると、須藤はまた笑って、

「こういう時には、お手伝いさせてくださいではなく、やらせてくださいと言うものですよ。君が自分でやるんです。私は、英語はまったく話せませんから、この話も、君と久保田社長に一任です。ただ、サーテン社のトップとは友人付き合いしていますから、何か問題があったら、声をかけてください。よろしくお願いしますよ」

清明はまた、この人は何者なんだろうと思わずにいられなかった。

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須藤の秘密

<益永 研>

この物語は実話に基づいているが、登場人物や企業名はすべて架空のものである。

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