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【その男の名は高木清明】Vol.4 敦子と逢い引きの夜。須藤の素性が徐々に明らかになっていく


新宿イメージ

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須藤の秘密

その夜、清明は、初台にある会社の寮に荷物を預けた後、敦子と食事をするため、6時過ぎに地下鉄で新宿に向かった。

清明の実家は静岡にある。シカゴ赴任前まで住んでいた寮の部屋にはすでに、別の社員が住んでいる。しばらくは空いている部屋に泊まることになるが、3年間、シカゴで2ベッドルームのコンドミニアムに住んでいた清明にとって、6畳一間の若手社員向けの寮の部屋はさすがに狭かった。

清明は、今回の帰国を機に、いよいよ、自分だけの部屋を借りるつもりだった。部屋を借りても、敦子は中野の自宅に両親と一緒に住んでいるため、同棲は期待できない。しかし、新しい部屋の台所で、手料理を作ってくれる敦子の姿をイメージして、内心ニヤついたところで、新宿駅に着いた。

「あれ、先に着いてた? 結構早く終わったね?」

敦子はすでに、改札口の前で待っていた。人混みの中でじっと佇む敦子は、身長はそれほど高くはないが、顔は最近「無表情」で話題になっている女性ユニット、ウィンクの相田翔子に少し似ている。いわゆる大人可愛いというタイプだ。

改札を出て、前回、シカゴでもしていたように思わずハグをしようとした清明に、「ダメです」と囁きながら、歩きだした敦子の背中を追った。シカゴではジーンズとカットソーシャツという少年のような姿で歩き回っていた敦子だが、今夜はチャコールグレーのスカートに白色のシャツブラウスをゆったりと着こなしているせいか、いつもよりさらに女性らしく見える。横に並び、腕を組もうとして、また「ダメです」と言われた。

「飛行機に乗って疲れているでしょう。今日は、ゆっくりされた方が良かったんじゃないですか?」

それでも、自然に腕を組んだ清明に、敦子がほほ笑んだ。「食事をするなら、あのまま社長とご一緒されるかとも思っていましたわ」

「社長は声をかけてくれそうだったけど、僕の方から先に、今日は早めに帰りますと言った。まずは君と飲まなければ、始まらないよ」

左ひじにかすかに当たる敦子の胸の感触に満足しながら、清明は聞きたかったことを尋ねてみた。

「ところで、今日、社長と一緒に来た須藤さんというのは、誰?」

「誰って、紹介されたんでしょう?」と、敦子は言いながら、地下道からの出口に急ぐ。「6時半に予約したんです」

敦子が予約した店は、新宿駅西口ロータリーからすぐの路地裏にあるメキシコ料理の店だった。以前、出張で帰国した時に、敦子と初めてデートした店だった。タコスやトルティーヤといったメキシコの定番料理に加え、テキーラの飲み放題といったサービスもある。値段が安いのが、一番の魅力でもあった。

タコスイメージ

「おぉ、ここかぁ。よく予約できたね。店が狭いから、当日の電話じゃぁ、まず空いてないと思ったけど」

「ソル・パストール」というその店の前で、清明が喜ぶと、「実は、昨日、電話しておいたんです。シカゴから帰ってすぐ、メキシコ料理はどうかなとも思ったのですけど、私が来たかったら。良かったですか?」と敦子が、確認する。

「ノープラモデル!」

清明は笑い、敦子の腰に手を回して店に入った。本当は「ノープロブレム(問題ない)」というところを、「ノープラモデル」と言うのは、シカゴで清明の同僚だった小杉幸助の冗談の一つである。

「何、それ。バカね、本当に」と言いながらも、口調が変わり、笑顔もこぼれた敦子に、清明も、帰国して初めて緊張がほぐれた思いで笑った。

都内にある有名な女子短大を卒業してすぐ入社した敦子と、マンモス大学卒業後に新卒入社した清明は、実は光栄物産ではほぼ同期になる。2歳とはいえ清明の方が年上であり、内勤と営業という立場の違いもあって、会社では五歩も十歩も下がった態度で清明と接する敦子だが、清明としては2人だけの場では、敦子にもリラックスして欲しいと思うのだ。

一通り注文を済ませ、ビールで乾杯したところで、清明は敦子に再び、須藤について質問した。

「久保田社長からは、須藤さんについてN証券出身で、目黒商事の元社長だったということ以外、聞いていないんだ。社長は須藤さんをずいぶん信頼しているようだけど、目黒商事の先輩後輩というだけのことなのかな?」

「社内的にはそう言っていますね。久保田社長と一緒に、目黒商事を辞めてきた経理の大崎常務は、須藤さんを、営業に関しては『伝説の人』だと言っていたし、それは営業の人たちにも言っているわ。当時、目黒商事の四天王と呼ばれた方たちも皆、八重洲支店で須藤さんの直接の部下だったらしいの。目黒商事では、当時、『須藤学校』とも言ったそうよ」

四天王のイメージ

「四天王というと、今の大阪ユニバース貿易の坂本社長、南方商事の東川社長、山水物産の西本社長、それに久保田社長か。それは凄いな」

大阪ユニバース貿易も南方商事も、1970年代前半に立ち上げて、わずか15年ほどで、およそ150社近くある商品先物業界のトップ10に数えられる大手に成長した会社だった。山水物産と光栄物産はまだそこまで大きくはないが、それでも業界歴7年、29歳の清明にとって、この4社の代表を須藤が育てたというだけで、「凄い」としか評しようがなかった。

「ただ、常務自身は、須藤さんをそれほど信用していらっしゃらないようだけど」

ビールに続いて、テキーラを注文した敦子は、タコスに手を伸ばしながら、続けた。

「須藤さんが来られる前に開かれた役員会議でも、大崎常務は須藤さんのコンサルタント就任に反対されたらしいわ」

「何で?」

好物のスモークチョリソーにかぶりつきながら、清明が尋ねた。

「どうも、須藤さんは豊田商事に関わっていたらしくて、そういう人をコンサルタントに迎えるのは良くないという話だったみたい」

「えっ、豊田商事?本当かい?」

清明は、突然出てきた豊田商事という名前に驚いた。

NEXT :6月8日 木曜日更新予定
豊田商事の指南番

<益永 研>

この物語は実話に基づいているが、登場人物や企業名はすべて架空のものである。

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