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【その男の名は高木清明】Vol.9 世界大手糖商からの初注文は東京粗糖2400枚買い。逆ざや状態の東京粗糖はどうなる


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初日は無難に終了

粗糖は現在(89年10月末)、「当限(とうぎり)」と呼ばれる90年1月から「期先(きさき)」と呼ばれる91年5月まで、それぞれ1カ月の間隔を置いて90年1月、3月、5月、7月、9月、11月、そして91年1月、3月、5月と合計9限月(げんげつ)の先物が取引されている。

「限月」とは「期限月」。要するに、あらかじめ取引所によって設定された受け渡しが許される最終月のことである。

そして杉原が問題視したABスターン社の注文票には、この日、当限の1月限を除く他のすべての限月にそれぞれ300枚ずつ、合計2400枚の「成り行き」の買いを入れるという注文が書かれていた。それも「寄り付き」と呼ばれる午前9時から始まる前場1節に出さなければならないというものだ。1月限を除いたのは、当限については取引所に誰が売買しているのかの報告を求められるからだろう。

それでも、3月物の納会は1月末。その日まで、この買いポジションを持ち続けて現物受渡しの意思を明らかにすれば、光栄物産が3000ドンにも及ぶ粗糖の受渡し作業をすべて引き受けることになる。受渡しの実績がないお前にできるのか?と杉原の目が問いかけていた。

何といっても、世界的な糖商として知られるABスターン社の注文である。事実、同社は今年7月にも別の商品先物会社を使って現受けを実行していた。その時は初回だったが、枚数は約350枚。この月の受け渡し総数は4248枚だったから、国内の商社や精糖メーカー各社の受け渡しに比べれば大きな数字ではなかった。しかし「海外の糖商による初の現受け」として、商品先物業界では大きな話題になった。

その意味でこれらすべての注文を「現受けするのか?」という杉原の疑問は市場部長として妥当なものだ。だが今の清明には、正直なところ、杉原と議論している余裕はなかった。

そこで、「今日の注文は単なるご祝儀相場。今後はこういう取引のやり方はしないだろうと言ってきています」と注文を受けた小杉の言葉をそのまま伝えた。

「少なくとも、現物のヘッジ取引とか受け渡しが念頭にあるのなら、一度にこれだけの枚数を出すことはないでしょう。受け渡しはあっても、そんなに大きなものではないと思います」

清明は須藤の顔を思い起こしながら言いきった。

「そうかぁ、それならまぁ、良いか。とにかくこれだけの注文だ。取引所からお叱りを受けないように、できるだけおとなしく出そう」

杉原も場電の方に向かいながら、清明に手を振った。

午前9時に始まった東京粗糖は90年1月限を皮切りに、各限月ともほぼ4~5分の時間で一気に前場1節が終えた。取引は10トン単位だが、成立値段は1キログラムあたりの価格で表示される。90年1月が42円90銭、3月以降は42円80銭、42円70銭、42円10銭、41円50銭、40円90銭、41円10銭、40円90銭と期近に比べて期先が安い「逆ざや」となった。逆ざやは目先の需給のひっ迫、すなわち現物をほしい人間に比べ供給量が少ない状況の現れである。

NEXT :7月21日 金曜日更新予定
活況続く東京粗糖先物市場

<益永 研>

この物語は実話に基づいているが、登場人物や企業名はすべて架空のものである。

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