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【その男の名は高木清明】Vol.14 商品取引所法改正による分離保管制度義務付け前、商品先物会社の資金源とは


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光栄物産の資金源

そこで清明は、経理担当の大崎に一度は尋ねたいと思っていたことを口にした。

「常務は先日、資金のことは任せておけと仰いました。仮に相場が瞬間的に逆に行って、ABスターン社が大きな損失を抱えることになっても大丈夫なのでしょうか? その損失分もまた、一時的にせよ、当然わが社が立て替えることになるのでは?」

その時、ちょうど中居が鮪鍋の準備のために部屋に入ってきた。大崎はちょっと待てという仕草を見せながら、逆に聞き返してきた。

「高木も宍戸も営業出身だったな。高木は、シカゴでは法人の清算業務にかかわっていたのか?」

「いえ、経理はほぼ小杉がやっていましたので、僕は商社やあちらのブローカーたちの接待係でした」

清明は笑って言った。宍戸も隣で「金勘定はまったくやったことはありません」と頭を掻いた。

「そうだろうな。営業は経理のことはまったく知らん。手数料を稼いで会社を成り立たせているのは営業だけで、経理は単なる計算係ぐらいに思っているだけだろうからな」と苦笑しながら2人に鍋を奨めた。

「この鍋は野菜と鮪だけだが、結構いけるぞ」

そして手酌で日本酒を飲みながら、こう尋ねた。

「2人とも、商品先物会社が個人投資家から預かる委託証拠金と、商品先物会社が顧客の建玉に応じて取引所に預託する売買証拠金の金額が違うことは知っているか?」

「違うことは知っていますが、具体的にいくらなのかは詳しく知りません」

宍戸が答えた。清明も同じだった。

大崎はそれに対して、「例えば今の東京粗糖だが、個人投資家の方々からわが社が預かる委託本証拠金は1枚5万円だ。それに対してわれわれが取引所に預ける売買本証拠金は5千円だ」と、2人が驚くような数字を言った。

「ええっ! たった5000円? 預かった金額の10分の1じゃないですか。なぜ、そんなに少なくて済むのですか? それならお客様の委託証拠金も少なくすればよいのではないですか?」

宍戸が間髪を入れずに聞き直した。瞬間的に投資家の顔になっている。もちろん本人は気づいていない。

そんな変わり様を見せた宍戸の表情に苦笑しながら大崎が言う。

「おいおい、証拠金そのものは5万円でも悪くない金額だろう。現物価格が42万円なら、ほぼ10%。それでも株の信用取引と比べたら小さい方だ。金額を言うなら売買証拠金の方が少ないことになるが、実はそうでもない。なぜなら、われわれ先物会社は、すべての注文について仮に損失が発生すれば、翌日までに損金に相当する額を取引所に納めるという責任を負っているからだ。市場を維持するのは取引所の会員であるわれわれの務め。そのためには手元資金も必要になる」

「つまり、もしお客様が損金を払えなくなっても、先物会社は立て替えなければならない。そのために取引所に預ける資金は少額になっているということですか」と宍戸が聞き返す。

「そうだ。だが表立っては言いにくいが、この差額の一部が手数料に加えてわが社の運転資金の一部にもなっているのも事実だ。裏を返せば、個人客の預かり証拠金が増えれば増えるほど、わが社に残る証拠金額は膨らみ、余裕資金も増える仕組みだ。しかし今はそれも違法ではない。これがあるから今回のように当業者の証拠金を立て替えることもできる。取引所から見ても、われわれ先物会社に、もっと個人顧客の注文を持ってきてくれといえる。いわば取引振興制度だ」

大崎は空になった杯に銚子を傾けた。

「アメリカにはマーケット・メーカーという制度があります。マーケットで円滑に売買が成立するのを助ける役目で、それを担う業者には、取引量に応じて報奨金が支払われます。特に上場したばかりの市場や規模が小さな市場では、マーケットに出された注文すべての相手方になって売買を成立させるマーケット・メーカーは不可欠です。日本では、その役割を個人投資家と先物会社が担っているということになりますね」と清明が、清明なりの理解を示した。

「しかし、それは他人のふんどしで相撲を取らせるようなものではないですか。どうも納得がいきませんね」

宍戸の頭はやはり個人投資家の立場から離れない。そんな宍戸に再び苦笑して、大崎は「しかし、そのおかげで会員である当業者たちは個人投資家の半額という少ない証拠金と手数料でヘッジができる。そして、そもそも商品先物取引所は当業者のための市場だというのが法律の趣旨なのだから、われわれが力んでも仕方がないさ」と言ってから、宍戸に向き直り、こう付け加えた。

「といっても、この仕組みはもうすぐ変わる。来年の商品取引所法改正で分離保管制度が導入されるからだ。これは仮に商品先物会社が倒産しても委託者資産を保全するための制度だが、商品先物会社にとっては、これまでのように委託者資産を自社で利用できなくなる。宍戸が言うように、商品先物会社も改革が求められるということだ。しかし新制度の実施は平成3年からだ。業界も経過措置を要望しているから、今回のABスターン社の資金については大丈夫だ。高木も宍戸も、お金のことは心配せず、せいぜい頑張ってくれ」と、この話題を打ち切った。

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着実に買玉を積み上げるペッパーファンド

<益永 研>

この物語は実話に基づいているが、登場人物や企業名はすべて架空のものである。

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